第二次薔薇十字軍ヴィラ・ローザ争奪戦~前~




きっかけが何だったのか、ということはこの際あまり問題ではない。
問題は、この混乱をいかに収拾するのか、それに尽きるのだから。

「左舷弾幕薄いよ!何やってるのっ?!」
「お姉さま、それはアニメが違うというか年齢がばれます!」
「令ちゃん!そっち行った!」
群がる2年藤組部隊を左、1年藤組を右に相手して奮戦する黄薔薇一家。

「ふふふ……愚かね。この私に勝てると思って?」
「祥子、油断しちゃだめよ」
「お姉さま、手加減、のお間違いでは?」
「うふふ、そうね。手加減せずにやっておしまいなさい」
3年李組、2年桜組の連合を相手に、あくまでも優雅に敵をなぎ倒す紅薔薇姉妹。

「やれやれ、幾ら挑んでも無駄だということがわからないらしいね。志摩子っ」
「はい、お姉さま。皆さん、命は粗末になさるものではありませんよ」
1,2,3年の椿組旅団と対峙して一歩も譲らない白薔薇姉妹。

かく言う私は、山百合軍に依頼されて聖地……じゃなくて祐巳さんを桂さんと一緒に守っているんだけど。
「ねえ、蔦子さん。みんな何やってるのかな?薔薇さま方もお姉さまたちも全然来ないね」
緊張感の欠片もありゃしない。
まあ、それは仕方ないことなんだけど。
「きっと、お忙しいのよ。さ、祐巳さんの番よ」
「うん。あっ」
「祐巳さんって、ほんと顔に出るわね」
ババを引いてしまったことをもろに表す祐巳さんに、呆れたような桂さん。
窓から外の喧騒を眺めていた私も、華麗な技で敵を屠っていく薔薇十字軍の活躍に安心して席に戻った。
現在、薔薇の館にいるのはこの3人だけ。
放課後、1年桃組にいらっしゃった祥子さまに頼まれて、今日はどう考えても部活なんかないだろうと諦めた桂さんと、従軍カメラマン兼祐巳さんの退屈しのぎ相手となった私は、優雅にお茶の時間にしながらこの戦争が終わるまでの暇潰しにババ抜きなぞをやってのんびりと過ごしている。

「むー……蔦子さん、はい!」
「そんなに力まなくても。じゃあ、これね」
「あうっ」
「祐巳さん、わかりやすすぎ」
堪えきれずに笑いだしてしまった桂さんに合わせて、私も唱和する。
祐巳さんは独り、納得いかなさそうにしているけれど。

「ねえ、ほんとにさっきから煩いのは何なの?」
薔薇の館の外が気になるらしく、祐巳さんが席を立とうとするのを慌てて止める桂さん。
「ほんとに何でもないのよ。運動部がたまたまこの辺りに集まっちゃっただけだから、ほら次は祐巳さんよ」
さっさと私の手持ちカードから抜き取って祐巳さんに見せる。
「そうそう。それに、これまた『たまたま』合唱部や吹奏楽部なんかも集まっちゃったらしいわよ。今日は天気もいいしね、外で練習している部活が多いのよ」
まあまあ、と祐巳さんを席につかせて私も桂さんに合わせる。
「ふーん、そうなんだ。あ、じゃあねぇ……これっ!」
ぱっとカードを取って、にんまりと笑う。
「わーい!これで後2枚ね。蔦子さん、ほらほら、どっちだー?」

……ああ、もう。
ほんっとに可愛いんだから、祐巳さんてば。

くらくらするのに耐えて目の前に出されたカードに向かう。
カードの向こうの笑顔が、天使に見えた。





聖山百合騎士会。
それは聖者を守る騎士団としてつとに有名である。

第一次薔薇十字軍では屈辱的な敗北を喫し一度は奪われたものの、その後の第二次薔薇十字軍1年桃組戦役にて奪還、聖者を自分たちの拠点に移送して守備を固め、このヴィラ・ローザ争奪戦へと持ち込んだのだ。
第一次での反省を踏まえ、つまり薔薇ファミリー同士の確執を棚上げにして一致協力し、そこへ1年桃組の聖者の親友たる蔦子、桂をも抱き込んでお守につけ、万全の迎撃体制を整えた。
白・紅・黄の縦三色地にこれも同じ三色の百合を配して、中央に子狸を紋章とした騎士団旗を掲げ、戦意も高く敵を迎え撃つ。
敵の数は前リリアン生徒と多いけれど、たとえこの命果てようと聖者を渡すわけにはいかぬ。
その気迫は圧倒的多数の敵兵を圧し、漲る戦気は雲を突きぬけ天を焦がす。

「第一次では私たちの分裂が敗戦の要因だったと言えるわ」
そう冷静に分析するのは黄薔薇一家の家長、黄薔薇さまの鳥居江利子。
「そうね、三薔薇ファミリー同士で抗争していたおかげで2年藤組の奇襲にやられ、挙句、祐巳ちゃんを敵本営ミルクホールでのお茶会に攫われてしまった。くっ、全く静のやつ、存外抜け目ないんだから……」
と白薔薇さまが頷くと、傍らの妹、白薔薇の蕾も同調する。
「ええ、あの日のお茶会は屈辱的でした……祐巳さんのいらっしゃらないお茶会があれほど無味乾燥なものだとは思いませんでしたね、お姉さま……」
「まったくよ。翌日の1年菊組での、あの皆の勝ち誇った顔……きー!今思い出しても頭に来る!!」
「由乃、そのことは忘れて。あの時の菊組連合は強かったよ、確かに。1年から3年までが一致団結したんだから。内部抗争していた私たちが勝てないのも道理だった」
由乃を宥めながら黄薔薇の蕾、支倉令が悔しさをかみ締めるような表情で思いを馳せる。
彼女もまた、姉や妹と同じく翌日のクラスで怒りを耐えねばならない苦労をしたのだ。
「あなた方が私の祐巳を奪おうとしなければ、あんな目に会うこともなかったのですわ。ああ、もう、祐巳のいない一日なんて、もう二度と御免よ」
「落ち着きなさい、祥子。さて、そこで今回は薔薇十字軍内部での分裂は絶対に禁止、祐巳ちゃんを守り抜くことを第一義として事に当たる、文句はないわね?」
妹をなだめながら全員に確認を行う、聖山百合騎士会長の紅薔薇さま。
その場にいる全員の決意を確かめると、
「今回の第二次薔薇十字軍の最初の戦い、これを1年桃組戦役とするわ。志摩子」
紅薔薇さまに指名された白薔薇の蕾はす、と一歩前に出ると、その美しい顔に凛とした決意を秘めて頷く。
「はい、紅薔薇さま。必ず桃組から祐巳さんを連れ出してご覧に入れます」
「手はずは整っているのね、紅薔薇さま?」
「もちろんよ、白薔薇さま。祥子、どうなの」
「昼、祐巳の友達にきちんとその辺りは説明してありますわ、お姉さま。彼女たちが志摩子に協力してくれるはずです」
祥子もまた、愛する妹を奪われたあの悲劇を繰り返してなるものか、と萌え……いや、燃える思いではっきりと言う。
「黄薔薇一家には防御体制の準備をお願いしたいわ。準備が終わったらそのまま臨戦態勢で待機、持ち場はヴィラ・ローザ東側面前方戦線でお願い」
紅薔薇さまは江利子、令、由乃の順に視線を移しながら指示を出す。
「まずは正面切って突撃してくる連中を、玄関に辿りつく前に倒せるだけ倒せ、ということね。わかったわ、紅薔薇さま」
「ふ、む。ほんとは私たちが持ちたいところだけど……こっちは私と志摩子だけだしね。先陣は譲るわ、黄薔薇さま」
「白薔薇さまたちの出番はないと思いますよ。私たちで全て薙ぎ倒して見せます!」
「勇ましいわね、令ちゃん。私がいることも忘れないで欲しいわね」
令と由乃も、前回の「ミルクホールの屈辱」では菊組連合が主役でありそのために最大の被害を蒙っただけに、やる気はもの凄いものがある。

「白薔薇一家にはヴィラ・ローザ北面から西、裏から回り込む遊撃部隊を迎え撃って頂くわ」
「遊撃部隊の指揮は恐らく今回も静さま……お姉さま、あの屈辱を晴らすチャンスですね」
「……二度と立てないようにしてあげるわ、静」
白薔薇姉妹もまた、静率いる2年藤組遊撃部隊に煮え湯を飲まされたからして、戦意は天を突く。

「そして私たちは……」
「わかっていましてよ、お姉さま。玄関を死守し、決して祐巳の許へは辿りつかせませんわ。令、あなたたちの後衛にはこの紅薔薇姉妹が控えているのだから、撃ち漏らしても構わなくてよ」
「冗談。祥子たちに出番を与えるようなことはないさ」
不敵に微笑み合う蕾の2人。
だが、今回ばかりは火花が散ることもない。
その様子を見て安心した紅薔薇さまが、作戦発動の号令をかけた。

「いくわよ、何があっても祐巳ちゃんは守り抜く!作戦開始!」





とりあえずここまでの経緯をこの私、山口真美がご説明します。
「誰に話してるの、真美っ!3年松組と職員同盟が動くわよ!」
「編集長!ロサ・カニーナ遊撃部隊が移動を始めました!」
「追いなさい!で、あなたたちは本陣の菊組をミルクホールで張って!真美、行くわよ!」
えー、お姉さまは取材に必死ですが。

まずは第一次薔薇十字軍から説明しましょう。
あれはそう、中心人物である聖者、紅薔薇の蕾の妹である福沢祐巳さんがミルクホールへやってきたことに端を発するのです。



「うわー……いつ来ても凄いなあ、ここの人混みって」
怖気づいたように群がる生徒を遠くに眺めながら呟く。
「ま、祐巳さんにはきついわね」
「どうして?蔦子さん」
「その身長じゃあ、いることに気づかれなくて踏み潰されちゃうんじゃない?」
あはは、と笑いながら言う蔦子に、祐巳はぷうっと頬を膨らませる。
「うっ」
「ど、どうしたの、蔦子さん?」
「あー、いや何でもないわよ。ちょっと、ね」
「鼻をぶつけたの?大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」

そうこうしている内に、購買前の人の群れは更に膨れ上がっていく。
「うーん、これは……諦める?蔦子さん」
「ご冗談を。ここまで来て引き返せますかって。益々飲みたくなってきたわよ、私は」
「そういえば蔦子さんって何を飲みたいの?」
「ドクダミ茶」
「……そんなのあったっけ」
「あるわよ」
ぐい、と腕まくり、をする振りだけをして祐巳に、
「さ、行くわよ祐巳さん。遅れて踏まれないようにね」
「もー、蔦子さんたら!大丈夫だもん!」
祐巳も蔦子に倣って腕まくりの振りをした。

とは言え、やっぱり踏まれそうな気がして、蔦子の後ろを掻き分けながら着いていく。
「ぎゃうっ」
「だーいじょーぶー?祐巳さん」
「大丈夫ー!きゃんっ!」
あっちへふらふら、こっちへふらふら。
押され、揉まれ、ツインテールを振り乱しながら必死の形相。
ちょっとー!何で今日に限ってこんなに凄いのーー?!
と思いながらも一生懸命人混みを潜っていく。
この場に山百合会のメンバーがいたら、恐らく周囲の人間を吹き飛ばして祐巳のための道を作るのだろうけれど、今日は誰もここへ来ていない。
やっとの思いで、もう少しで到着、というところまで来て。

どんっ!
「あわわっ!」
ぽて。

「祐巳さんっ大丈夫?!」
さすがに倒れてしまう人がいては、この群集もそれに無関心ではいられず。
何と言ってもここはリリアン、そこまで薄情ではない。
「ごめんなさい、大丈夫?」
「ほら、つかまって」
「ちょっと皆さん、少し空けてくださらないかしら」
口々に言っては祐巳を助け起こそうとする。
慌てて戻ってきた蔦子は人一人分だけできたスペースに祐巳を見つけると手を差し伸べようとする。
が。
「……はっ?!」
俯いた祐巳の眦に少しだけ光るものを見つけて、飛び退った。
「痛っ」
その拍子に、後ろにいた人にぶつかってしまったけれど、それを気にしている余裕はない。
蔦子の本能が警鐘を鳴らしていた。
やばい。
これはやばい。
早鐘のようにカンカンと鳴る音が耳にまで響いてくるようだ。
山百合会の他には、同じクラスの蔦子や桂しか知らない、あの危険な技がこんな大勢の人の中で発動されたらどうなるか。

だが、今はもう警告を発している余裕はない。
みなさん、ごめんさない。
そう心中で周囲の人たちに謝罪すると蔦子は目を閉じた。

その後、聞こえてきた音は。

「ごめんなさい、ありがとう……」
という祐巳の愛らしい声と、

「はあ~~~~~」
という溜息と共に、どさっという人の崩れる音だけだった。



とまあ、そんなわけで、ミルクホールにいた人々から噂は広まり、まさかそんなことないだろう、という人たちや、一度でいいからその技を味わってみたいという猛者が1年桃組に押しかけて。

ミルクホールテロ(お姉さまが勝手に命名)から一週間後、緊急全校集会が生徒からの署名過半数により開会され、そこで「紅薔薇の蕾の妹の独占及びその行動制約禁止に関する条項」がA規約とB規約を付加して制定されて。
それに基づいて行動を起こした人たち……というよりも山百合会を除く全生徒と教職員が第一次薔薇十字軍戦争、その時は紅薔薇の蕾の妹奪還戦争と言われていましたが、それを起こし、山百合会との戦争状態に突入。
当初は何よりも知力・体力・財力(が関係するかどうかは別ですが)に優れ、尚且つ紅薔薇の蕾の妹を手中に収めている山百合連合が優勢と思われていたのですが、中庭会戦の最中に祐巳さんのレベルCが発動。
呆気なく裏切った白薔薇姉妹が守っていた祐巳さんごと戦場から離脱しようとして失敗、駆けつけた黄薔薇一家の手によって落ち延びようとしていたところでレベルBが発動。
これまた瞬殺された黄薔薇一家が祐巳さんの独占を図って山百合連合から抜けたところを本家本元、紅薔薇姉妹とその場にいた菊組連合との挟撃に合い、更に突出してきた藤組遊撃部隊の攻撃を受けて戦場は大混乱。
いかな紅薔薇さまと紅薔薇の蕾と言えど多勢に無勢。
衆寡敵せず、祐巳さんを奪われ。
何が起こっているのかを正確には把握していない祐巳さんは、「たまには私たちとミルクホールでお茶を楽しんで頂けないかしら」と、よく知っている静さまに誘われ、何の疑いも持たずに(っていうか、ちょっとは疑えよ)そのまま着いていき、初戦は聖山百合騎士会の惨敗に終わってしまったのです。



とまあ、そんなわけで今に至るわけですが。
もちろん、私たち新聞部は情報収集が命。
ファイナル祐巳フラッシュ(これもお姉さまが…略)の存在は早い時期から掴んでいましたので、全部員に戒厳令を出して祐巳さんの半径10メートル以内に近づくことを禁じていましたから、こうして活動できています。

あ、お姉さまがそろそろ暴走しそうなので、これで失礼します。



~つづく(んか、おいっ)~
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by rille | 2004-09-19 01:03 | まりみてSS
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