年中行事




「あけましておめでとうございます、お姉さま」
いつもと違う挨拶もなんか新鮮で。
「おめでとう、祐巳」
着物姿のお姉さまはやっぱり素敵だった。
凛々しくも美しいお姉さまにぼ~っと見とれていると、
「さ、行きましょう」
歩き慣れない私に手を差し伸べてくれる。
そっと触れると、微かに暖かくて。
白く繊細な指に触れた瞬間に火照った頬を見られないように、ちょっと俯いてしまった。
そのままちら、とお姉さまの方を見ると、どうやら私と同じだったみたい。
襟元を押さえながら右手はしっかりと私の手を握り、背けたお顔は耳が真っ赤だった。
「お姉さま……」
「祐巳……」



「は~い、はいはい、そこまでよ」
「そうそう、祐巳ちゃんは私のもの。はい祥子、手離して」
「誰があなたのものですって?聖」
「そうです!祐巳ちゃんは私の……」
「へた令ちゃんは黙ってなさいよ!さ、祐巳さん私の手を……ってちょっと!志摩子さんっ」
「さあ行きましょう祐巳さん。みなさんがいがみあってる間に愛の逃避行を……」
「ちょっとあなたたち!祐巳は私の妹でしてよっ!」

ほんわかラブな雰囲気を醸し出せるはずもなく。
山百合会総出の初詣はいきなりの騒動から始まった。

元旦の初詣から始まって、バレンタイン、ホワイトデー、夏休みにハロウィン、そしてクリスマス。
何かしらの行事にはやはり好きな人と一緒にいたいもので。
一般的な行事に加えて、やれ中間考査終了記念だ、期末考査中日だ、耳の日だ目の日だ手帳記念日だ、と好き勝手に作ったり無理矢理な記念日にかこつけて何かと祐巳ちゃんと絡もう……ありていに言えば祐巳ちゃんと一緒に過ごしあわよくばお持ち帰りしようと企んでいる山百合会。
一年の計は元旦にあり、を逃すはずもなく、祥子さまの必死の隠蔽工作も無駄に終わってこうして全員集合。

「ささ、祐巳ちゃ~ん。白薔薇さまのお車で一緒に行こうね~(……い・い・と・こ・ろ、にね♪)」
「あんな辛子色の趣味悪い車になんか乗らないわよね、祐巳ちゃんは。さ、おばあちゃんと手を繋いで歩きましょうね、祐巳ちゃん(……そのまま何もかも繋がってもいいのよ~)」
「あ~ら蓉子、『おばあちゃん』の皺皺かさかさの手なんか繋ぎたくないわよね、祐巳ちゃん。さ、黄薔薇さま特製のキャンディーあげるからこっちにいらっしゃい(……うふふ、これを舐めればたちどころに……)」

怪しげなことを考えている薔薇さま方に、

「祐巳ちゃん、おせち作ってきたんだ。一緒に食べようね」
令さま、神社で食べる気ですか?

「祐巳さんは私と行くのよ!ね、祐巳さん。私たちは心の友よねっ(……体も、ね)」
理由などくそくらえ、イケイケで突っ走る由乃さん。そして、

「あら祐巳さん、無理しなくてもいいのよ。わかってるもの、あなたの心は……」
どこまで妄想に突入しているのかわからない微笑で志摩子さん。

厳かな気分で神妙に手を合わせるなどという雰囲気は欠片もなく。
「いい加減にしないと、私怒ってよっ!!」
憤怒の形相凄まじく、祐巳ちゃんをがばっと抱き締めて魔の手(祥子さま視点)から守ろうと奮闘中の祥子さま。
その腕に抱かれてお姉さまの愛情を感じつつも、「一年の計って……これなの?」と、る~と涙を流す祐巳ちゃんでした。





すったもんだの挙句、とにもかくにも神社へ到着した山百合会の皆さん。
さすがに神様の前で喧嘩するわけにもいか……

「祐~巳ちゃんっ何をお願いするのかな~。あ、やっぱり私とのことだよね?ね?」
「バカ言ってるとその神様の御前に逝かせてやるわよ、聖」
「まったくだわ。祐巳ちゃん、お願いの内容はわかってるわ。大丈夫、私も同じ気持ちだから」
「お姉さまっ?!さり気なく私の祐巳ちゃんにほお擦りしないでくださいっ」
「あ~らお姉さま。一体いつから祐巳さんがお姉さまのものに?」
「ひっ!よ、由乃……」
「大丈夫よ祐巳さん。神前ではお祈りできなくてもちゃんと毎日マリア様にお願いしているから。安心して嫁いできてね」
「志摩子!なに呆けたことを言ってるのっ!」

……どこであろうとこの方々には関係ないみたいです。





さて。
何とかお賽銭入れて拍手をうつとこまで来た面々。
ちょっとお願いの内容をば……

<白薔薇さま>
(今年こそ祐巳ちゃんとあんなことやこんなことや、そ~んなことまで……えへ、えへへへへ……)

……神様にお願いする内容ではない気がしますので、次へ。

<紅薔薇さま>
(祥子には悪いけれど……あ、そうだ、こうすればいいんじゃない。神様、どうか私の可愛い妹に、別の妹を授けてください……)

確かに、子宝に恵まれ云々とか神社の由来にあったような気もしますが。
何と言うか……方向性が違いませんか?

<黄薔薇さま>
(ま、私は本来神頼みなんてしないんだけどね。そうねぇ……祐巳ちゃんちょうだい)

神罰が下っても知りませんよ?まあ、たとえ神罰の雷光が落ちてもデコで跳ね返しそうですけど……。

<紅薔薇のつぼみ>
(どうか今年こそ法改正に成功して小笠原家の力で祐巳を守れますように……祐巳維持法が成立しますように……)

えーと。
小笠原家の力って……いったいどんな法律を成立させようとしているんですか?

<黄薔薇のつぼみ>
(何とか由乃を大人しくさせてください……できれば薔薇さま方や祥子も。あと志摩子のやばそうな道具をなくしてください……)

……何と言うか。
とても後ろ向きなお願いですね、令さま。

<黄薔薇のつぼみの妹>
(どうか祐巳さんを私にください……代わりに令ちゃんあげます)

あなた、ほんとうに黄薔薇のつぼみの妹ですか?

<白薔薇のつぼみ>
(祐巳さんと○○○……うふふふふ、祐巳さんと×××……)

……あの……いえ、なんでもないです。

こうなると、祐巳ちゃんが一番、というか唯一まともな気がします。

<紅薔薇のつぼみの妹>
(白薔薇さまが抱きつかなくなりますように。紅薔薇さまが白薔薇さまを殲滅しなくて済みますように。黄薔薇さまのおでこがもうちょっと昏くなりますように。由乃さんが暴走しませんように。それで令さまが怪我をしませんように。志摩子さんが危ない道具を持ち込みませんように……)

ちょっと願い事が多いような気がしないでもないですが。
でもまあ、決して多いとは言えないお小遣いの中から奮発して500円も出したんですからよしとしましょう。

お願いが終わって祐巳ちゃんが顔を上げると、
「ちょっと聖!邪なこと考えてるんじゃないわよ!」
「蓉子、人のこと言えるわけっ?!聖も調子に乗ってるんじゃないわよ!」
「煩いこのデコ!ていうか祥子、小笠原の力で国会動かすつもりっ?」
「由乃ちゃん、へた令と祐巳が等価値で交換できるわけないでしょう!」
「なによ令ちゃん!私が不満なわけ?!」
「由乃だって!って、志摩子、妄想だだ漏れにしないでっ!」
「うふふ……祐巳さん……」
年末だろうと年始だろうと、山百合会は山百合会のようです。
すっかり諦めきった祐巳ちゃんは、青空を見上げて溜息ひとつ。

と、そこに。
「大変ですね……」
振り向くと、神前で取っ組み合いの大喧嘩を始めそうな山百合会を面白そうに、そして恐れながらも見守る群集の中に、おかっぱ頭の市松人形のような子が祐巳ちゃんを同情の眼差しで見つめているのが見えました。
「あ、ありがとう……でもまあ、年中行事だから」
はあ~っともう一度大きく溜息をついて。
憂いを含んだ瞳をする祐巳ちゃんに、我知らず赤くなってしまったその子は、
「げっ元気だしてください!あ、そうだ、この裏手にお稲荷さんがいらっしゃるんですよ、市の文化財指定されてる。よければ気晴らしに見に行きませんか?」
言ってから「な、何言ってんだ私!知らない子にそんなこと言われても来るわけないじゃん!」と自分に突っ込みを入れますが、
「ほんと?うん、連れて行って」
穢れを知らない純粋無垢な瞳を向けられ、あわやノックアウト寸前。
必死の想いで呼吸を整えると、
「じゃ、じゃあご案内しますね」
そうして人混みを掻き分け、「はぐれたら大変ですから」とか何とか理由をつけて祐巳ちゃんの手を握ると赤い顔を隠しながらその場を去っていきます。



後には。



「やるかー、このデコ!」
「紅薔薇の力、見せてあげるわ!」
「由乃ちゃん、生意気よっ!」
「お、お姉さまと言えど手加減は……ごめんなさい」
「紅薔薇さま、祥子さまっ改造後の私の実力、見せてあげますっ!」
「ああ……祐巳さん……」
「きーーーーー!!(びりっ)」





この後祐巳ちゃんはおかっぱ市松人形ちゃん(祐巳が勝手に命名)に色々な説明を受け、満足して帰ったそうです。

みなさんを置いて。



この時、祐巳にあてられた少女が数ヵ月後、薔薇の館に殴りこみ(違)をかけ、祐巳ちゃん争奪戦に参戦するのは、また別のお話。
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by rille | 2005-01-30 01:18 | まりみてSS
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