紅葉じゃなくても




「お姉さま、秋ですね」
「そうね」
「紅薔薇さま、秋ですよ」
「ええ、秋ね」
言いたいことは何となくわかったが、2人とも一生懸命話を持っていこうとする祐巳が可愛くてそっけない返事で濁す。

「……秋はいいですよね」
「ええ、そうね」
「暑くないものね」
紅薔薇さまは祐巳を見ながら微笑んで、祥子さまは手元の文庫本に目を落としたまま。

さて、次はどう来るかな、と思っていると祐巳は「うー、どう言えばいいんだろう」「あ、これなら」「いやでも……」「こっちで攻めた方がいいのかな」と心の中で呟いてることが手にとるようにわかる表情で悩んでいる。

秋の午後。
平和な薔薇の館でお茶を楽しみながら祐巳を愛でる。
紅薔薇一家の楽しみであり、且つ紅薔薇一家の嗜みでもある。
祐巳にしてみれば「わかってるくせに……お姉さま方のいじわる」という気持ちに違いないけれど、紅薔薇さまと祥子さまに言わせれば「あなたが可愛らし過ぎるのがいけないのよ」ということになる。

そんな紅薔薇ファミリーを見て、微笑ましい光景だと思
「じゃあさ、祐巳ちゃん。私と一緒に秋を堪能しようか」
……そんな牧歌的な感想を抱く山百合会ではなかった。
白薔薇さまがつつつ、と祐巳に近づくと肩に手を置いてその整ったお顔を祐巳に近づけながら誘う。
「睡眠の秋、一緒に私と寝」
「るわけがないわよね、祐巳ちゃん。祐巳ちゃんは私と一緒に行楽の秋を楽しむのよね」
語尾を食って黄薔薇さまが参戦。
どうやら白薔薇さまは祐巳を抱き枕にしたく、黄薔薇さまは何処へ行っても詰まらない行楽を祐巳となら楽しめると思ったようで。
「ちょっと江利子。横から口出さないでくれない」
「あら、祐巳ちゃんはあなたのものじゃないでしょう。誰が誘ってもいいじゃない」
「そうですよ白薔薇さま。それに祐巳さんは私と令ちゃんとスポーツの秋を堪能するんですから」
「え?由乃?」
「あら何、令ちゃん。嫌なわけ?」
「令?あなたお姉さまを差し置いておいしいとこ持って行こうなんて思ってないわよね」
こと祐巳とのことになると由乃さんが黙っているはずもなく。
黄薔薇さまににっこりと刺されながらも「祐巳ちゃんとスポーツを堪能……テ、テニスとかいいかも……」と微妙に怪しげな目つきで妄想に突入する黄薔薇の蕾。
そんな令を尻目に、由乃さんは薔薇さま方を向こうに回して一歩も引かない。

「あ、あの皆さん……」
紅薔薇さまとお姉さま、3人でと思っていたのが、なぜにこんなことに?
という表情で祐巳がおろおろと口を挟むと、
「祐巳ちゃ~ん、ほら、2人の甘い眠りのために、安眠まくらも買ってあるんだよ」
白薔薇さま、あなた学校にそんなもの持ってきてるんですか。
「あら祐巳ちゃんはこっちの方がいいわよね」
ぴらぴらと……ではなく、ぎっしりとファイリングされた『日本全国遊園地チケットファイル(祐巳用)』をぱらぱらとめくってみせる黄薔薇さま。
「祐巳さんはこっちよね、サイズもちゃんと祐巳さん用にして令ちゃんが作ったのよ」
それも学校に持ってくるものではないと思いますが。
妄想の赴くまま既に作ってあったんですね、祐巳用アンダースコートまで。

ぎゃいぎゃいとまくし立てられて、困りきった表情の祐巳に救いの手を差し出したのは、白薔薇の蕾。
「皆さん、祐巳さんが困ってらっしゃるじゃないですか」
「志摩子さん」
助かった。
この騒ぎを何とかしてくれるのは志摩子さんだと信じてたよ、と安堵の表情を浮かべたのも束の間。

「祐巳さんは私と一緒に銀杏拾いを楽しむんです。秋と言えばやっぱり銀杏よね、祐巳さん」
にっこり笑って言われても。
というか、その手にした「祐巳さん専用銀杏セット」って何ですか?
なんか、真っ赤なんですけど。
祐巳が心に思った突っ込みを読み取ったのか、
「これ?3倍速く拾えるのよ」
「……そ、そうなんだ」
拾う人間が変わらないんだから道具を赤くしたところで変わらないんじゃないかな、とも思ったけれど、口には出さないでおく。
「ちょっと志摩子。変な趣味に祐巳ちゃんを引きずり込まないで頂戴」
「姉を差し置いて、しかも銀杏だなんて。教育し直す必要がありそうだね、志摩子」
「さ、祐巳さんこれ穿いてみて」
「ええっ?こ、ここでっ?」
「祐巳ちゃんが私の作ったアンダースコートを……はぁ、はぁ……」
「令、どうでもいいけど変態よ、それじゃ」
「ささ、祐巳ちゃん。ロサ・ギガンティアと一緒に寝て、あわよくばいいことまでしようねー」
「白薔薇さまっ!」
「祐巳さん、さあ銀杏と(私との愛の日々)が呼んでいるわ」

もはや収集のつかなくなった薔薇の館。
どうすればいいのー、と泣きそうな祐巳をよそに、皆さんヒートアップするばかり。
と、そこへ。

「さあ祐巳。行くわよ」
「へ?」
「今日は私が奢ってあげるわ。祐巳ちゃんの大好きなガトー・ショコラ」
「紅薔薇さま……はいっ」
いつの間にか帰り仕度を済ませた祥子さまと紅薔薇さまが、祐巳の鞄まで持ってにこやかに微笑む。
大好きなお姉さまと紅薔薇さまにそう言われてしまえば、もう勝負はあったようなもの。
そうは言ってもそこは山百合会。

「ちょっと蓉子!たまには私に祐巳ちゃん貸してくれたっていいじゃない」
「そうよ、聖に貸したらどうなるかわかったもんじゃないけど、私になら構わないでしょう」
猛然と抗議する白薔薇さまと黄薔薇さまに、

「覚悟はできてる、ととっていいのかしら?」


「祥子さま、ここまで黙っておいて、いきなりそれは抜け駆けってものです!」
「そうですわね。だいいち祐巳さんと私と銀杏の間には強い絆が……」
「志摩子の訳分からない話はいいとして、折角作ったんだから祐巳ちゃんに……」
相手が祥子さまだろうとイケイケで噛み付く由乃さん、意味不明な抗議の志摩子さん、そして変態が抜け切れてない令さまに、

「命はひとつしかなくってよ」


視線だけで人を殺す、の見本のような紅薔薇さまと紅薔薇の蕾。
あまりの恐怖で固まってしまった山百合会のメンバーを尻目に、優雅に微笑むと、
「「じゃあ、ごきげんよう」」
2人の真ん中で手を繋いでご満悦な祐巳を挟んで、ダメ押しの視線を浴びせる。
そのまま、彫像と化した面々を置いて薔薇の館を出ると、秋の陽射しの中、紅薔薇一家は仲良く手を繋いで歩く。
色づいた公孫樹並木の下、3人はとても幸せそうな表情で正門に向かっていった。





その後姿にシャッターを切りながら、蔦子は呟いた。
「紅葉じゃなくても、紅が最強ってことね」
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by rille | 2004-08-31 12:25 | まりみてSS
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