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そこはかとなくマリア様がみてる。 marimite.exblog.jp

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まりみてSS現在36本。紅薔薇属性……っていうか、祐笙推奨ブログ(笑


by rille
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適量






「……すみません、仰った意味がよくわからないんですが?」
放課後の薔薇の館で、聞き間違いだろういやそうに違いない絶対に聞き間違いだそれ以外にあるはずがない、とほぼ確信を持ちながらも一往尋ねてみるのは白薔薇のつぼみ。
その場にいる他のメンバーも一様に一瞬何を聞いたのだろう、と呆けた表情から回復してその回答を待つ。

「はぁ……ちゃんと聞いてなかったの?仕方ないわね、もう一度言うわよ」
こめかみを押さえながら呆れたように答えるのは正真正銘のお嬢様、紅薔薇さま。
「はい、ぜひともお願いします」
未だに信じられない、というか聞き間違いでしかないと思いつつ今度は黄薔薇のつぼみが頼む。
その横では黄薔薇さまもうんうんと頷いているし、白薔薇さまも「嫌だわ祥子さまったらご冗談ばっかり」と今にも言い出しそうな表情で同意を示した。
ちなみに今日は、紅薔薇のつぼみは用事で遅れている。
そのことを知らずにいつものように祐巳に会いに来た瞳子、可南子も先ほどの祥子の発言で中断してしまったにらみ合いをそのままに祥子を注視し、いつの間にやら瞳子を押しのけて紅薔薇のつぼみの妹最有力候補にのし上がったことで全校生徒及び職員その他諸々から突き刺さるような視線を浴びまくっている笙子も、信じられない、というか信じてない目で祥子を眺めた。
そんな一同を見回した後、左手を腰に当て、右手の人差し指でこれ以上ないくらい美しい直線をつくりそのまま優雅な曲線を描きながらメンバーをぐるりと指す祥子。
そして、
「これから一週間、禁祐巳とします」

「……祥子」
「……紅薔薇さま」
「……祥子さま」
「……紅薔薇さま」
「……祥子お姉さま」
「……紅薔薇さま」
「……紅薔薇さま」
これだけだと何が何だかわからないが、上から順に令、由乃、志摩子、乃梨子、瞳子、可南子、笙子である。そうであるったらそうであるのである(何かヘン)。
呼び方は少しずつ違うが、直後に出た言葉は同じだった。

「「「「「「「いや、それはあんたが一番無理だろ」」」」」」」

全員の揃った突っ込みに危うく引きそうになりながらも、そこは紅薔薇の威厳を見せて踏みとどまる。
「な、何よ、私まで禁祐巳するとは言ってないわよ」
が、言った言葉が悪かった。
「祥子、それはないんじゃないかな。じゃあ私はどうすればいいわけ?祐巳ちゃんのためにスペシャルおやつメニューを向こう3年分、既に作ってあるんだからさ」
「祥子さま横暴です!どうして肉体の友と書いてしんゆうと読む私が祐巳さんを禁じられなきゃならないんですか!」
「それは納得できませんわ。何と言っても祐巳さんが私に会わずに一週間も我慢できるとは思えませんから。私と祐巳さんは……うふふ、これ以上は言えませんけど」
「仏像は断てても、祐巳さまを断つなんて……無理です、無理無理、絶対無理」
「わ、私は別に、かま、かまわないない……で、で、ですわ」
「ふ。禁祐巳さまだろうが何だろうが、私には無意味であることをまだおわかりになってらっしゃらないようですね、紅薔薇さま」
「……みんな、何か違ってない……?」
恐る恐る笙子が最後にまともな発言で締めるが、その語尾をかき消す勢いで祥子の優雅なる発言が被さる。もちろん、優雅な発言ってどんなだ、という突っ込みは無用である。
「そこよ!」
「は?」
きょとんとする山百合会メンバーに、
「あなたたち、今の山百合会がどう噂されているか知っていて?」
「どうって……山百合会だし、今までとそう変わらないと思いますが。ねぇ、志摩子さん?」
「ええ、生徒たちの山百合会のイメージなんて、一朝一夕に変わるものとも思えません。いかがでしょう、黄薔薇さま?」
「そうだね。お姉さまたちが親しみやすい山百合会を目指して結局果たせなかったくらいだから、今がそんなに変わったとも思えないね。どう、乃梨子ちゃん」
「はあ、まあそうですね。私が山百合会に入る前とそれほどは……」
瞳子、可南子、笙子は正式なメンバーでないためにまだ少しは一般生徒に近いのかも知れない。
何か思うところがあったのか発言しなかった。
「あなたたちねぇ……いいわ、ならこれをご覧なさい」
はあ、と大きく溜息をつきながらバサ、と投げ出す紙。
どれどれ、とみんなが頭を寄せてテーブルの上に投げ出されたそれを覗き込むと、
「リリアンかわら版?」
「ええそうよ。とにかくよく読んでみなさい」
「どれどれ……」
代表して令がかわら版を取り上げ、声に出して読み始める。
「えー、『黄薔薇のつぼみご乱心!紅薔薇のつぼみを襲……って、何よこれ、由乃っ!」
「それどころじゃないわよ、志摩子さんあなたっ!『怪奇、消えた白薔薇―授業中に消えた白薔薇さま、風邪で欠席していた紅薔薇のつぼみ宅のベッドで発見される!』」
「乃梨子、これは何かしら?『緊急インタビュー!白薔薇のつぼみ、紅薔薇のつぼみとの愛を語る!市内で開催中の仏像展に来訪した2人を……私の見間違いであればいいのだけれど?」
「『愛情の裏返し?―1年椿組松平瞳子さんは紅薔薇のつぼみに関して……瞳子あんたっ!」
「なんですのこれはあっ!『細川可南子告白!『祐巳さまは私だけの天使です』っ?!」
「黄薔薇さま?許せることと許せないことがありますわ。『お手製クッキーで遂に陥落、黄薔薇さまの勝利宣言』どういうことかご説明頂きたいですね」
ぴくぴくとこめかみを美しく震わせている紅薔薇さま。
「それだけじゃないわよ。山百合会が何て呼ばれているか、知っていて?」
祥子の言葉に全員が首を横に振る。
「……山『祐巳』会、よ」
「あら、それは言い得て妙ですね」
「志摩子、それは仮にも薔薇さまの称号を負う者の台詞じゃなくってよ」
笙子は言わなくてよかった、そう思った。
実際今の山百合会を見ていれば、どれだけ祐巳に依存しているかがわかろうと言うもの。それならそんな名称が出てきても不思議でも何ともないだろう。



ぎゃあぎゃあとバトルロイヤルを続けている山百合会メンバー+2を見ながら、笙子はそっと溜息をついた。
そしてそのまま左手で制服のポケットを探ると、指先でかさりと鳴るその感覚に頬を緩ませる。
もちろんその表情を誰に悟られるでもなく、喧騒の中をこっそりと抜け出すと階段を降りたところで後ろを振り返る。
階上からは言い争う声が聞こえ、誰も笙子が消えたことには気がついていないらしい。
「祐巳さまへの愛情過多よね……どうしてわざわざ手紙を下駄箱に入れてくださったのか、わかるような気がする」
そう呟いてドアを出ると、そこでようやく安心してポケットから手紙を取り出す。
薔薇の館に来るまで何度も確かめたその文面には、
『お話があるので温室まで来てもらえるかな?あ、みんなには気づかれないようにね。祐巳』
女の子らしいちょっと丸い文字、決して達筆ではないけれど祐巳の人柄がにじみ出ているような可愛らしい文字がこれもまたシンプルだけど淡く透かされた薔薇がきれいな便箋に踊っている。
手紙なんだから口語でなくてもいいのに、『あ、』なんて書く辺りが祐巳さまだなあと思った。
どんな話なのか、内容はまったくわからないけれど読む度に祐巳のことを想って緩んでしまう頬を慌てて引き締めながら、笙子は足を温室に向けた。










その夜、大事そうに押さえている胸元に気がついた克美の、
「ふうん、なるほどね。まあ、愛情も度が過ぎると困ってしまうってことかしら。笙子の愛情が祐巳さんには適量だったのね」
という言葉に、笙子が真っ赤になってしまったことは言うまでもない。
by rille | 2005-08-04 00:22 | まりみてSS