雨上がり




「蓉子さまは、雨上がりがお好きなんですか」

いつもの帰り道。
昨夜から降り続いていた小雨も止み、薄く延べられた雲を透かして夕陽が濡れた木々の紅葉を更に赤く染め上げている。
ゆっくりと歩いていた足を止めて軽く息を吸い込んだ紅薔薇さまに、隣を歩いていた少女が問いかけた。
「ええ。……どうして?」
蓉子の言葉は足りなかったが、少女の問いかけの理由もまた不足していたからこれはお互い様というものだろう。もちろん、彼女に蓉子の意図は正確に伝わっていたが。
「なんとなくです。今の蓉子さまが、ただ雨上がりの空気を感じたいだけって訳ではないんじゃないかな、と思ったので」
小さく笑いながら言う。
きっと彼女自身にもどうしてそう思ったのか、なんて正確なところはわかっていないのだろう。それでも蓉子の行動のほんとうを正しく言い当てたことが、少女― 出会ってからまだほんの少ししか経っていない、しかも山百合会のメンバーですらない一般のリリアン生に過ぎない、福沢祐巳が、このリリアン女学院の誰よりも蓉子のことを理解しているということをあらわしていた。

そんな祐巳に微笑みながら、
「そうね、雨上がりのきれいな空気も好きだけれど、それ以上の理由があるのかも知れないわ」
「ご自分のことなのによくわかっていない、ということですか」
「祐巳ちゃんは自分のこと、よくわかっていると言い切る自信があるの」
質問に質問で返す。かと言ってぎすぎすした雰囲気が皆無であるのもまた、彼女たちのいつもの光景だった。
「……そうですね。よくわかりません」
苦笑する祐巳に、その割には私のことをよくわかっているのよね、祐巳ちゃんは、という言葉を飲み込んだまま頷いてみせる。

正課授業が終わった直後でも、部活動が終わる時間でもない曖昧な放課後のせいか、周辺に生徒たちの姿は見えない。ただ風が、薄い雲と紅葉に溜まった水滴を落として行く。
目の前にいる、この間までは平凡ないちリリアン生にしか過ぎなかった少女を見つめながら、こんな時間を過ごしている自分を当たり前にように感じている、それが蓉子には不思議でもなんでもないことがおかしかった。
「蓉子さま?どうなさったんですか」
どうやら声に出して笑ってしまったらしい。祐巳が小首を傾げながら蓉子に眼差しを向けている。
「ごめんなさいね、何でもないのよ。ただ……」
「ただ?」
「祐巳ちゃんとこうして毎日を過ごしていることが、当たり前のように思っちゃって」

ほんとうなら、それは不思議なことでなければならない。
現に祐巳のクラスメイトをはじめ、山百合会のメンバーや教員に至るまで未だに事実を受け入れ切れていない様子なのだから。唯一の例外はリリアン一の変わり者(と、蓉子は好意的に用いている)であり、祐巳の親友でもある武嶋蔦子だけだろうか。
こうして毎日を過ごす関係になるまでのことを少しだけ思い出し、改めて思う。
「そのことの方が不思議だわ。祐巳ちゃんとはもうずっと一緒に過ごしてきたような気がするんだもの。不思議な子ね、あなたは」
祐巳は何も言わず、黙って蓉子を見つめている。
けれどもその目を見ただけで蓉子にはわかってしまった。
彼女が、「私もです」と言っているということが。

だから彼女も黙って祐巳を見つめる。
とても穏やかで、とても優しい沈黙が流れ、2人を景色に溶け込ませていく。
雨上がりの透き通った、紅い景色の中に。








『祥子……』
晴天の霹靂、というのはこういうことを言うのかも知れない。
きっと会議室に集められた山百合会のメンバーならずとも、ここ何日かの噂で恐らく知られているであろう全リリアン生にとってもそうであるに違いない。誰もが思っていたはずだ。「福沢祐巳は、紅薔薇のつぼみの申し出を受ける」と。
気丈に振舞う妹を気遣う黄薔薇のつぼみの姿を眺めながら、ぼんやりと蓉子はそんなことを考えていた。

恐らく妹、祥子にとっての衝撃は「妹を作ることができなかった」つまり「シンデレラを演じなければならない」ということであり、「福沢祐巳にロザリオの授受を断られた」ことではないだろう。
そもそもの動機が不純すぎたし、けれどそれについて何も言わなかったのはこうなること― 祥子がそれでも持ち前の負けず嫌いで主演だけは立派にこなすだろうということと、イコール福沢祐巳にふられてしまうだろうということ ―を予測していたからかも知れない。

『問題なくってよ、令。約束ですもの、きちんと役はこなすわ』
それでも男嫌いの祥子には、従兄弟と言えど男性とダンスを踊るという確約されたシーンが浮かぶのか、幾分青ざめてはいたが。
ただ、令が心配しているほどのショックは受けていないようで、
『あなたもいいわね。ここまできたら、申し訳ないけれどこのまま手伝って頂けないかしら』
言葉遣いがきちんとしていることから、そのことが伺われた。
会議室中の視線を浴びた感じになった少女は、一瞬だけ目を閉じ、はっきりとした声で返答した。

『はい。お手伝いいたします、紅薔薇のつぼみ』

それはこの数日、祥子と薔薇さまたちとの間で賭けの対象にされ、うろたえつつも何とか山百合会の雰囲気に慣れてきたかな、という少女と同一人物だとはとても思えなかった。

―― ああ、そうか。

不意に蓉子は理解した。
少女がその後ビスケットの扉と呼んだ会議室のドアの前で、祥子とぶつかったあの日。
戸惑いと不安に怯えながらも、祥子と薔薇さまたちの賭けの本質を見抜き、姉妹の契りを断ったあの日の違和感。
そして続く日々の中で、明るく素直、けれど多くの中に埋もれてしまいそうな風を装いながら蓉子や聖、江利子の興味を惹きつけて離さなかった妙な存在感。思いがけず短期間で結果が出てしまったが、彼女が紅薔薇の系譜を引き継がないという予感。

聖や江利子はまだわかってはいないようだ。
彼女、福沢祐巳が毅然として礼を失しない完璧な態度で祥子に相対した今の様子を、さきほど正式に姉妹の契りを断った時よりも更に驚きの目で見つめいているから。

だとしたら、チャンスね。

人知れず蓉子は胸中で微笑む。
あの少女のほんとうの姿を、自分しか知らない。
そしてきっと、それを知ったら聖や江利子に限らず今は同じように吃驚している令、志摩子や由乃たちまでが惹かれてしまうから。

この子をわかってあげられるのは自分だけ。
そして、自分をわかってくれるのも、あの子だけ。

蓉子の中で言い知れない歓喜の震えが湧き上がり、同時に計り知れない幸福感で満たされる。
実際、黄薔薇さまほどではないが、蓉子もまた渇望していたのだ。
祥子が妹として不足なのではない。彼女が次代の紅薔薇さまとして立派にやっていけるであろうことは、学院中の羨望をその一身に受けているというカリスマ性からも確実だ。
聖や江利子が親友として不満なのではない。今の自分に不満なのでもない。山百合会のあり方に希望はあるけれども、それほどの不満を感じているわけでもない。
そんなものではないのだ。

―― 誰かにわかってもらいたい。
ただそれだけだ。それが大仰であるというのならば、この人といればそれだけで安心できる、という相手が欲しいと言ってもいい。
人が他人を理解することは不可能だと、知ったようなことを言う人種もいるが、蓉子はそれでも諦め切れなかった。
全ては滅びという真理から逃れることはできないという、無常観ならば理解できる。そこからくる諦めは彼女も人間である以上は共有しているのだから。
けれども、蓉子の渇望を満たす者を求めることは、つまり他人とわかりあうことを追求することは決して不可能なことではないのではないだろうか。ア・プリオリな不可能など、そのことについては当て嵌まることができないのではないか。
そしてその時、蓉子は幸運にもこの若さで渇望を満たして余りある潤いに出会えたことを、はじめて神に感謝したいと思った。

『……見つけた。もう誰にも渡さない』
蓉子の呟きがそこに居た誰にも聞きとがめられることがなかったこともまた、彼女に与えられた幸運だったのだろう。きっと。








「蓉子さま?」
声へ視線を向けると、そこには訝しげに見つめる瞳があった。
少し回想に耽ってしまいすぎたのだろう、祐巳は複雑な色を浮かべて蓉子を覗き込んでいる。いや、彼女たちの身長から言えば、「覗き上げている」と言う方が正しいか。
回想の余韻のためか、蓉子はしげしげと祐巳を見つめる。
居心地悪そうに首を竦める祐巳に、
「そう言えば蔦子さんが言ってたわね」
「?何を、ですか」
「私たちは被写体ではない、そうよ」
蓉子の言葉に疑問符を浮かべる。
さすがに言葉が足りなすぎたか、と思いつつ学園祭の後、クラブ展示の終了報告書を持参した蔦子との会話を教えてやることにした。








『以上です。展示写真の今後の保管方法についてもレポートにありますので』
『確かに。ありがとう、ご苦労様』
とんとん、とレポートをまとめながら蓉子は、ところで―と切り出した。
『蔦子さんは祐巳ちゃんとはずっと一緒だったのよね』
『ええ、幼稚舎から……腐れ縁、でしょうか』
リリアン生らしからぬ言葉で笑いを浮かべながら答える。他の生徒ならば多少の違和感を覚えてしまう単語ではあるが、蔦子が言うとまったく自然にしか感じない。
『私からも紅薔薇さまに伺いたいことがあるのですが。よろしいですか』
誰もいないことはわかっているのだが、つい周囲を見渡してしまう。もちろん、そうしたことでそこに誰かが急に現れるなどということはない。白薔薇さまとそのつぼみは体育館の撤収指示に出ているし、黄薔薇さまは山百合会を代表して花寺学院へ終了挨拶とお礼に出ている。
黄薔薇のつぼみはグラウンドの最終チェック、その妹は部室棟、祥子は学院事務室へ会計報告。
全体の管理統括としてこの薔薇の館に残っているのは蓉子だけだった。

『構わないわよ。祐巳ちゃんのことでしょう』
『お見通しでしたか』
小さく笑うと、蔦子は居住まいを正した。
表情からも笑みを消し、まるでファインダーを覗いている時のような真面目な表情で蓉子に向き直る。
『紅薔薇さまは祐巳さんを山百合会に入れるおつもりですか』
『いいえ』
即答だった。
その質問から始まるとは思っていなかったから、多少面食らったけれども答えは考えるまでもないことだった。
ただ、それ自体は不可能なことではない。薔薇さまというのはあくまでも通称であり、生徒会であることに変わりはない。文部科学省の学習指導要領にも規定された特別活動の執行機関であることは他校と同様なのだから、別途の役職を措くことは手続きを踏めば簡単なことですらあるのだ。
学園祭への祐巳の関わり方は学校側も生徒も見てきているのだから、蔦子の危惧― 敢えてそう表現しておこう ―と同じことを、他の生徒たちも思っているに違いない。
学校側は生徒たちに見えていないことまで見ている。山百合会の役員たちが気づいているかどうかはわからないが、蓉子が祐巳に学校・執行部・生徒の間を繋ぐ役目を密かに課していたことも気づいているだろう。そしてもちろん、それが現山百合会の誰が行うよりも円滑に進められたことにも。
だから彼女を山百合会に迎え入れることに、何らの障害もない。

『蔦子さんの危惧は、幼稚舎からの付き合いだから?それとも……』
『紅薔薇さまのお考えの通りです』
ふっ、と表情を崩して蓉子は続ける。
『大事なのね、祐巳ちゃんが』
『はい』
こちらも即答だった。
蔦子にしてみれば、それこそ言うまでもないことだ。が、敢えて続けた。
『祐巳さん以上に大切なものなんて、私には存在しませんから』
そう、と呟くように言うと、蓉子は蔦子の胸元に存在感を主張している一眼レフに目をやった。そしてもう一度、そう、と繰り返すと、
『蔦子さんの写真』
『はい?』
『絆、だったわね。素晴らしかったわ。嫉妬してしまうくらいに』
視線を上げて目を合わせる。眼鏡の奥で少しだけ色が動いた。
何だろうか、と蓉子がその意味を探る前に蔦子は答えを出してしまっていた。
『あれはその……自分で言うのも何ですが、構図や技術は完璧だったと思っています』
はにかみながら言うその姿に、普段は大人びた風だが年相応の雰囲気を感じた。
『何かが足りてない、と思っているのね』
『はあ、その何かが何なのかを説明するのは難しいんですけれども』
『あら、ならわかってはいる、ということなのかしら』
蓉子の言葉にこくり、と頷くと、
『敢えて言うなら……そこに祐巳さんがいない、と言いますか』
ひどく曖昧で抽象的な内容だったが、それでも蓉子は蔦子の言いたいことをほぼ的確に掴めたような気がした。

あの写真は素晴らしかった。それは間違いない。
忙しい合間を縫って各展示を回ったが、思わず足を止めてしまったのは蔦子の作品だけだった。芸術に造詣が深いわけではない自分が見入ってしまったのだから、何かしら「感じる」ものがある、そういう作品だったのだろう。
けれどもそれだけではなかった。
同時に「何かが足りていない」とも思ってしまったのだから。
それが何なのかを言い表すことは今の蔦子同様、彼女にもできなかった。だからこそ足を止めてしばし考えこんでしまったのだ。
今、蔦子が言ったことでようやくその答えを得たような気がした。
『それはあれが祐巳ちゃんだから、じゃないかしら』
蓉子の言葉は先の蔦子同様、不足気味ではあったが撮影者の蔦子本人がわかっているのだ、その先へ進めても彼女ならば理解してくれるだろうという推測は無理ではない。
案の定、
『さすが蓉子さまですね』
と笑った。
『それが祐巳さんそのものだと思います、私も。祐巳さんはあの写真の中で紅薔薇のつぼみとの「絆」がまさしくそのものであるかのように写っている。祐巳さんだからそう写ることができる』
『それも無意識のままに、ね』
『誰と写っていても、何と写っていても祐巳さんはそこに溶け込めるんです。どんな写真も彼女が写っていると不自然じゃなくなる。でも、そこに祐巳さん本人だけがいない』
祐巳が祐巳であることのできる場所が、人がいないのだ、と蔦子は続けた。蓉子はそれに頷きながら祐巳が山百合会を呆然とさせた時のことを思い返す。
あの子は決して凡庸ではない。自己主張がないわけでもない。寧ろ、これは本人ですら気づいているかどうか怪しいが、誰よりも自分という存在を確立しているのではないだろうか。
無意識のうちなのだろう。そのことが自信なげな様子に繋がるのだろうから。

『で、唯一祐巳さんを写せた写真があるのですが』
『えっ?!』
思わず声が大きくなる。
蔦子は報告書を取り出したファイルから、一葉の写真を抜き出すと蓉子に差し出した。
ひったくるようにして受け取ると、蓉子の目が大きく見開かれる。
こんな紅薔薇さまのお姿を拝見できるのは役得よね、と思いながら蔦子は蓉子の驚きが納まるのを待った。
『蔦子さん、これって……』
『何を話されているのかまではわかりませんでしたが。そこには祐巳さんがいます。そして』
にっこりと笑って続けられた言葉に、さすがの蓉子もヤラレタ、と思った。

『ほんとうの蓉子さまも』

何を話していたかは蓉子自身も覚えていない。けれどそこには確かに、微笑む蓉子と祐巳、2人が写っていた。









「その写真、私には見せてくれないんですか、蓉子さま」
「ふふ、ダメよ。私だけの宝物だもの」
「蓉子さまのいじわる……」
むくれる祐巳だったが、ふ、と顔を上げて、
「あれ?でもそれが被写体にならないってことと、どう繋がるんですか」
「カメラマンとして写したくないらしいわ。私たちのいる光景というのはそれとして存在するべきものであって、印画紙に写し取るものでない、そう言っていたわね」
わかったようなわからなかったような、そんな微妙な表情を浮かべながら祐巳は頷いた。それでいいんだと思う。きっとそういうことは明確に答えの出るものではなくて、なんとなく感じ取ることだと思うから。
でもね、と蓉子は続ける。
「その時一番嬉しかったのは、蔦子さんが私を『紅薔薇さま』と呼ばなくなったことね」
「あ」
つまりそれは。
祐巳も気がついた。
蔦子さんは気づいたのだ、私にとって蓉子さまが、蓉子さまにとって私が……。

「何だか結婚相手の親に認めてもらうことみたいだけれど。祐巳ちゃんの親友に認められることが」
そういって苦笑を浮かべる。
同性、しかも祐巳と同い年なのだから確かに変なことだが、雰囲気はわからないでもなかった。



薄くなっていた雲が切れる。
射し込んでくる夕陽を浴びながら、祐巳は気になっていたことを聞いてみる気になった。
「蓉子さま。蓉子さまはなぜ私を山百合会に入れなかったんですか」
けれど蓉子はその質問にすぐには答えず、ただ、
「ちょっと持っていてくれるかしら」
そういって鞄を手渡す。受け取りながらデジャビュを覚える祐巳を尻目にスカートのポケットからハンカチを取り出すと祐巳の肩に当てた。
「さっきの風で水滴が落ちてきたみたいね」
これくらいなら中にまで浸みないとは思うけれど、と。
「あ。ありがとうございます」
ハンカチをポケットに戻し、鞄を受け取った蓉子は、
「理由は2つ。ひとつは私が雨上がりが好きになったのと同じ」
「え?」
さすがにわからない、と祐巳は無言で先を促した。
「乾いていた私を潤してくれたのが祐巳ちゃん。今の私はとても満たされていて幸せよ」
渇望していた頃の私は雨自体が好きで、それが上がってしまった後は物足りなさを感じていたけれど、と続ける蓉子の頬が赤いのは夕陽のせいだけではないだろう。視線が落ち着かなくなった祐巳もまた同様なのだが。
照れ隠しなのか、どもり気味に祐巳が尋ねる。
「あ、あの、それで、も、もうひとつは……」
「それはね」
そこで言葉を止める。
祐巳に向けていた穏やかな視線を外し、祐巳の肩越しに校舎を見遣った。
いや、正確には校舎の方からやってくる一団を睨み付けた。

「?蓉子さま」
「……薔薇の館には、ああいう輩がいるからよ」
「はあ?」
わからない、と祐巳は振り返って蓉子の視線を追って。
「……あ、あはは」
微妙な笑い方をした。



「こらー!蓉子、祐巳ちゃん連れてどこ行こうって言うのっ」
「令、さっさとロザリオ返しなさい!祐巳ちゃーん、黄薔薇のロザリオを……」
「お、おお、お姉さまっ?ロザリオは由乃に、って由乃っ?!」
「祐巳さん、これを受け取ってー!」
「ちょ、由乃ちゃん!あなたは妹作れる訳ないでしょう、薔薇さま方も!!そもそも最初に祐巳に目をつけたのは私ですっ!」
「早いもの勝ちですわ、祥子さま。祐巳さん、恥ずかしがっていないで、私のロザリオを……お姉さまのセクハラなら私が殲滅しておくわ」



「えーと……」
祐巳としては何とも言いようがない。さっきまでの穏やかで満ち足りた幸福な時間は何だったんだろうか、と思いつつ蓉子を見上げる。
こめかみを押さえながら怒りを堪えていた蓉子も、怒り心頭であることは間違いなく、迫り来る集団を有無を言わせず叩きのめすかどうするかで一瞬悩んだが、
「よ、蓉子さまっ?」
「逃げるわよ、祐巳ちゃん」
祐巳の手を握ると走り出した。



「逃げたっ?」
「追いなさい、令っ捕まえられなかったら姉妹の契りを破棄するわよ!」
「そ、そんなあ……あ、でもそしたら妹はもう無理だとしても祐巳ちゃんに姉になってもらうことは……」
「令ちゃん!不埒なこと考えてると*すわよっ」
「お姉さまー!紅薔薇のロザリオはまだ空いてますのに、どうしてお逃げになるんですか!祐巳を私にください、っていうか寄越せ!!」
「あらあら祥子さま、祐巳さんは既に私のものですよ?」



背後に不穏な声を聞きながら、蓉子も祐巳も笑っていた。
こんなドタバタも、たまのスパイスだったらいいのかも知れない。
どうせこの繋いだ手は、決して離されることはないのだから。

永遠に。
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# by rille | 2008-11-23 22:45 | まりみてSS